中小企業が直面するIT資産管理の課題とは?主要な課題から解決案、ツールの選定ポイントまで解説
近年、DXの加速やテレワークの普及により、企業が保有するIT資産は急速に多様化・分散化しています。こうした変化の中で、資産の「見える化」が不十分なまま運用が続けられると、コストの無駄やセキュリティリスクを招く可能性もあります。特に中小企業では、リソース不足から属人管理や手動台帳に依存しているケースも少なくありません。
本記事では、中小企業が直面しやすいIT資産管理の代表的な課題とその背景、さらに具体的な解決手段やツール選定のポイントまでを整理してご紹介します。現状を見直すきっかけとして、ぜひお読みください。
目次[非表示]
- 1.IT資産管理とは?
- 1.1.IT資産管理が注目される背景
- 1.2.IT資産管理が複雑化する理由
- 2.中小企業が直面するIT資産管理の主要課題6選
- 2.1.社内のIT資産の把握・可視化ができていない
- 2.2.セキュリティリスクが増加している
- 2.3.ライセンス管理が煩雑化している
- 2.4.ITコストの可視化・最適化ができない
- 2.5.IT資産のライフサイクル管理の仕組み化ができない
- 2.6.手動・属人的な管理体制になっている
- 3.課題を解決する4つの手段
- 3.1.1.IT資産管理ツールの導入
- 3.2.2.資産台帳のクラウド化・自動化
- 3.3.3.CMDB(構成管理データベース)の構築
- 3.4.4.ガバナンス強化とポリシー整備
- 4.課題を解決するIT資産管理ツールの選定の3つのポイント
- 4.1.自社の管理対象範囲と運用実態の合致
- 4.2.自動化と可視化の機能レベル
- 4.3.既存システムや業務フローとの連携
- 5.IT資産管理などのツールも活用しながら、IT資産管理の課題を解決しよう
IT資産管理とは?
IT資産管理とは、企業が保有するハードウェア・ソフトウェア・ライセンスなどのIT資産を一元的に把握・管理することです。IT資産管理の最終的な目的は、コスト削減やセキュリティ強化、法令遵守により企業の責任を果たすことにあります。言い換えれば、IT資産管理は単なる技術的作業ではなく、企業戦略の中核を支える重要な取り組みだといえるでしょう。
IT資産管理が注目される背景
DXの加速とクラウド活用
クラウドサービスの普及により、管理対象は従来の物理機器だけでなく、オンラインサービスやその利用データにまで広がりました。業務プロセスのデジタル化に伴いIT資産の価値や管理方法も大きく変化しています。
働き方改革・テレワークの定常化
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が一般化し、社外からのシステムアクセスが急増しています。個人所有デバイスの業務利用(BYOD)の広がりもあり、従来の管理手法では対応が難しく、新たな管理体制が求められています。
セキュリティリスクの高まり
サイバー攻撃の手口が高度化し、情報漏洩などの脅威が深刻さを増しています。国内外のコンプライアンス要件も年々厳しくなっており、適切なIT資産管理でリスクに備える重要性が一層高まっています。
IT資産管理が複雑化する理由
企業のIT資産はその数・種類ともに増え続けています。一人の社員がPC・スマートフォン・タブレットなど複数のデバイスを業務で使い、様々なソフトウェアやクラウドサービスを利用する時代です。リモートワークの普及により管理対象は社外にも及び、従来の方法では把握しきれない状況が生まれています。
また、許可されていないITツールの利用(シャドーIT)や各部署での無秩序なクラウドサービス利用など、管理の目が行き届かない「見えない資産」も増えています。
さらに、多くの中小企業では依然としてExcel台帳など手作業による管理を続けています。しかし、対象が増え複雑化すると手作業管理には明確な限界があります。情報の更新漏れや遅延が発生しやすく、担当者に負荷が集中しがちです。さらに、専任担当者が不在、あるいは人員や予算が限られる場合、最新状況の維持が難しく、属人的な管理から抜け出せない問題も顕著です。
これらの背景から、IT資産管理はより一層難しくなっているのが実情です。
中小企業が直面するIT資産管理の主要課題6選
社内のIT資産の把握・可視化ができていない
自社内のIT資産を正確に把握できていない企業は少なくありません。PCや周辺機器、ソフトウェアが部署や拠点ごとに散在しており、「どこに何があるか」「どのように使われているか」を正確に把握できない状況です。統一された資産管理システムがない、または既存の仕組みが古く不十分であることが原因となり、全体像の可視化が困難になっています。結果として未把握の資産(いわゆる“見えない資産”)が生まれ、管理の抜け漏れやセキュリティホールにつながる恐れがあります。
セキュリティリスクが増加している
適切なIT資産管理ができていないと、セキュリティ上のリスクが高まります。例えば、社内に存在する未把握のデバイスがセキュリティパッチを適用されないまま放置されれば、新たな脆弱性の温床となりかねません。従業員が許可なく導入したシャドーITや私物端末など、管理の目が届かない資産は特に脅威です。
近年はサイバー攻撃の巧妙化に伴い、情報漏洩やシステム障害など企業存続に関わる重大な被害が発生しかねません。IT資産管理の不備はこうした攻撃への防御体制に穴を生む要因ともなってしまいます。
ライセンス管理が煩雑化している
ソフトウェアライセンスの管理も複雑さを増しています。手作業の台帳では「気づけば一部ソフトのライセンス期限が切れていた」「必要以上のライセンスを購入していた」といった事態が起こりがちです。
ソフトウェアごとに異なる契約形態(サブスクリプションや買い切りライセンスなど)が混在すると、更新状況の把握にも膨大な労力がかかります。その結果、未使用ライセンスに不要なコストが発生したり、逆にライセンス違反による法的リスクを招いたりする恐れがあります。
ITコストの可視化・最適化ができない
IT資産管理が不十分だと、IT関連コストの内訳やムダを可視化できず、最適化も困難になります。どの部門でどれだけITコストがかかっているか把握できなければ、不要な資産の購入や重複契約によるムダな支出に気付きにくくなります。
実際、管理状況が不透明なままでは“見えないコスト”が積み重なり、IT予算を圧迫してしまう恐れがあります。IT資産の利用状況や契約内容を正確に把握しなければ、コスト削減の施策も打ち出しづらいでしょう。
IT資産のライフサイクル管理の仕組み化ができない
資産の導入から廃棄までライフサイクル管理が仕組み化されていない場合、計画的な運用ができず様々な支障が生じます。例えば、適切なリプレイス(更新)のタイミングを把握できず古いデバイスを使い続けてトラブルを招いたり、新規調達の判断が遅れて業務に支障をきたしたりする恐れがあります。
突発的な故障への対応も場当たり的になりやすく、担当者の負担が増大する傾向があります。ライフサイクル全体を見通した管理体制がないと、結果的にコスト高やセキュリティリスク増大にもつながりかねません。
手動・属人的な管理体制になっている
IT資産管理がExcelなど手動の台帳に頼っている場合、管理体制が属人的になりがちです。担当者個人にノウハウや最新情報が集中し、その人が不在になると更新や情報把握が滞る問題が生じます。
実際、Excelでの管理では新しいデバイスの登録漏れや更新遅れが珍しくなく、データがすぐに古くなってしまいます。手作業ゆえの入力ミスや情報齟齬も避けられず、結果として資産情報の正確性・鮮度が損なわれてしまいます。
課題を解決する4つの手段
1.IT資産管理ツールの導入
IT資産管理ツールは、社内のハードウェアやソフトウェア、ライセンス情報を自動的に収集し、一元管理するためのソフトウェアです。ツールを導入すれば、各PCのインベントリ情報やソフトウェアの使用状況がリアルタイムで可視化され、手作業の台帳更新に伴う手間や漏れが大幅に削減されます。
例えば未使用ソフトウェアライセンスを検知して再割り当てしたり、契約数を超える利用を防止したりといった最適化も自動で実行可能です。なお、最近はクラウド型(SaaS)のIT資産管理ツールも多く、初期費用を抑えて短期間で導入できるサービスが増えています。限られたリソースしかない中小企業でも、このようなツールを活用することで効率的かつ正確な資産管理が実現し、結果的にコスト削減やセキュリティ強化につなげることができます。
2.資産台帳のクラウド化・自動化
IT資産の台帳(管理データベース)をクラウド上に移行し、更新を自動化することも大きな効果があります。Excelによる属人的な台帳管理から脱却し、クラウド上で常に最新の資産情報を共有できる仕組みに切り替えることで、情報の更新遅れや齟齬を解消できます。クラウド型であれば場所を問わずリアルタイムに資産状況を確認でき、誰がいつ何を変更したかの履歴も残るため、正確なデータに基づく意思決定が可能です。
また、各端末から資産情報を自動収集して台帳に反映する機能を使えば、手動入力の手間が省け、常に最新のインベントリを維持できます。今やExcelだけでは限界があるため、IT資産管理台帳をクラウド化・自動化し、DX時代にふさわしい管理体制を整えるべきでしょう。
3.CMDB(構成管理データベース)の構築
IT環境が複雑化している場合、CMDB(構成管理データベース)の構築も有効です。CMDBとは、サーバーやPC、ソフトウェア、ネットワーク機器などのIT資産情報を集約し、それぞれの資産がどのITサービスとどう関わっているかといった関係性まで整理して管理できる、データベースのことです。適切にCMDBを整備すれば、ITシステム全体の最新構成を「見える化」でき、インシデント発生時に影響範囲を迅速に特定するといった対応力も高まります。
例えば、全端末のソフトウェア構成情報をCMDBで把握しておけば、特定の脆弱性を抱えたアプリケーションがインストールされた端末も容易に洗い出せます。このように、IT資産管理ツールと合わせてCMDBを活用することで、より精緻な資産管理と迅速な意思決定が可能となるでしょう。
4.ガバナンス強化とポリシー整備
最後に、組織としてのガバナンス強化とポリシー(方針)整備も欠かせません。IT資産管理に関する社内ルールを明文化し、役割分担や手順を定めることで属人的な運用から脱却できます。
例えば、新規機器の調達時には必ず台帳に登録する、ソフトウェア導入は承認フローを経る、不要になった資産は定められた手順で廃棄する、といったポリシーを策定して全社員に周知します。併せて、定期的に資産棚卸しを行ったり、アクセス権限を見直したりする仕組みを整えておくことも有効です。
また、ソフトウェアライセンスの遵守や機密データの適切な取扱いなど、コンプライアンス要件に対応した管理体制を強化することも重要です。こうしたガバナンスとポリシーの整備により、ツール導入の効果を最大限に引き出し、IT資産管理のレベルを継続的に向上させることができます。
課題を解決するIT資産管理ツールの選定の3つのポイント
自社の管理対象範囲と運用実態の合致
まず、自社の管理対象となる資産の範囲と現状の運用に合ったツールを選ぶことが重要です。自社が管理したい資産の種類(PC、サーバー、モバイル端末、ネットワーク機器、クラウドサービスなど)をカバーできるツールかどうかを確認しましょう。
中小企業にとって最低限必要なコア機能は、①インベントリ情報の自動収集、②ソフトウェアライセンス管理、③ハードウェア台帳管理の3つだと考えられます。その上で、「ライセンス管理を強化したい」「クラウド/SaaSも含めて管理したい」など、自社の具体的な課題解決に必要な機能が備わっているかをチェックします。
反対に、大企業向けの多機能なツールには中小企業では使いこなせない機能が多く含まれている可能性があります。不要な機能に対して高いコストを支払うのは避け、自社の規模とニーズに合ったシンプルで必要十分な機能を持つツールを選びましょう。
自動化と可視化の機能レベル
次に、ツールの自動化と可視化の機能レベルをチェックしましょう。資産情報の収集や更新がどの程度自動化されているかは、運用負荷の軽減に直結します。ネットワークに接続された新しい機器やソフトウェアを自動検出して台帳に登録できるツールであれば、常に最新のインベントリを維持できます。
また、可視化の面ではダッシュボードやレポートで資産の利用状況やコストをひと目で把握できるかも重要です。例えば、拠点ごとの端末数やソフトウェア使用率、ライセンス消費状況などがグラフや一覧で表示されるツールなら、問題点の早期発見や経営層への報告も容易になるでしょう。
さらに、期限切れが近いライセンスや保守期限が迫った機器を通知するアラート機能があれば、トラブルの未然防止に役立ちます。リアルタイム性と分かりやすい可視化を備えたツールを選ぶことで、管理精度と意思決定のスピードが向上します。
既存システムや業務フローとの連携
最後に、既存のシステムや業務フローとの連携性も忘れずに確認しましょう。導入するツールが他の社内システムとデータ連携できれば、二重入力や情報の食い違いを防げます。例えば、資産台帳の既存ExcelデータやActive Directoryのユーザー情報を取り込める機能があれば、スムーズに初期移行できます。
また、ウイルス対策ソフトやデバイス管理ツールと連携し、IT資産管理とセキュリティ対策を一元的に運用できる製品もあります。こうした連携により、管理効率の向上だけでなくセキュリティレベルの強化にも大きく貢献します。将来的な拡張のためにAPI連携やCSVエクスポート機能の有無も確認しておくと良いでしょう。自社の既存業務フロー(資産の申請・承認プロセスやヘルプデスク業務など)になじむツールを選定することが大切です。
IT資産管理などのツールも活用しながら、IT資産管理の課題を解決しよう
ここまで、中小企業におけるIT資産管理の代表的な課題と解決策を解説してきました。社内資産の可視化不足やセキュリティリスク、ライセンス管理の煩雑さなど、どの企業にも心当たりのある悩みではないでしょうか。これらは適切な対策を講じることで必ず改善できます。
特に、IT資産管理ツールの導入や資産台帳のクラウド化といったテクノロジーの活用は、限られた人員でも効率的かつ正確に資産を管理する強力な助けとなるでしょう。加えて、ガバナンス強化やポリシー整備によって運用ルールを組織に浸透させれば、管理レベルの向上を長期的に維持できます。自社の課題を洗い出し、適切なツールと仕組みを取り入れることで、IT資産管理の悩みを解消し、安全で最適なIT環境を実現しましょう。